1、他者の合理性
社会学的質的調査において、「他者の合理性」というフレーズが用いられることがある。このフレーズは「一見しただけではわからない他者の行為や選択の背後にあるもっともな理由や動機」を指し示すものである。『質的社会調査の方法 : 他者の合理性の理解社会学』という本で説明されており、学生時代に、Xジェンダー当事者へインタビュー(記事 #6、#7、#8)を行った際も本書を参照した。
そもそも質的調査とは「特定の状況下におかれた特定の人びとについての解釈」をするための方法であるとされる。貧困層、マイノリティに属する人、戦争や災害などの大きな事件を経験した人、などに対してインタビューをしたり、そのコミュニティに入り込む形で参与観察調査を行ったりするのである。
他者を理解する営みは、自分の主観というフィルターを通して他人を語る点において暴力性を持つが、同時に隣人である他者への理解そのものを諦めてはいけないとも考えられている。
2、実践
「他者の合理性」という概念をインストールすると、他人の「不可解」な行動に一喜一憂せずに済むという点においてもこの考え方は有用であると思う。もちろん、自分が攻撃されているのならば話は別だが、相手は無限の選択肢の中から特定の行動を意図的に選び取っているのではなく、もしかしたら当人にとってその選択しかしようがなかったのかもしれない。そう考えるだけでもたぶん、精神の安定度合いが違う。
他者は難解だ。他者が決めたルールや他者同士の議論も難解だ。しかしその裏側には、その人なりの、そのコミュニティなりの結論と合理性があって、そうして様々なひととぶつかり、時にうなずき合いながら、生きていくのではないだろうか。
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